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東京高等裁判所 昭和44年(う)1503号 判決

控訴人 山田紙業株式会社

弁護人 青柳洋 外一名

検察官 鈴木茂

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告会社の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は弁護人石川秀敏、同青柳洋連名提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるからここにこれを引用し、これに対し次のように判断する。

控訴趣意第一点に付て。

所論に対する判断を示すに先立ち、本件に適用される昭和二十四年法律第二百八十六号に依る改正前の物品税法(昭和十五年法律第四十号で、昭和二十四年法律第四十三号に依る改正迄のもの、以下、単に「法」という)及び同法施行規則(昭和十五年勅令第百五十号で、昭和二十四年政令第百四十九号に依る改正迄のもの、以下、単に「規則」という)は、所論の諸点に関し、大要、次の如く規定している。

一  紙は、第一種戊類八十五(紙及びセロフアン)該当の課税物品であり(法第一条第一項)、その課税標準及び税率は、製造場から移出する時の物品の価格百分の二十である(法第二条第一項、第三条第一項本文)。

二  紙に対する物品税は、製造場から移出された紙の価格又は数量に応じ、製造者から徴収されるから(法第四条本文)、紙の製造者は、毎月その製造場から移出した物品に付て、その品名毎に数量及び価格を記載した申告書を翌月十日迄に所轄税務署に提出しなければならず、右申告書の提出が無いとき又は税務署長に於て右申告を不相当と認めたときは、税務署長はその課税標準額を決定することができる(法第八条第一項、第三項、規則第十六条第一項、第二項)。

三  戻入の場合の物品税の控除措置として、製造者が製造場から移出した物品を同一製造場内に戻入した場合に於て、当該物品に付て物品税を納付し又はその徴収の猶予を受けたことを証明すべき書類及び戻入の事実を証明すべき書類を呈示して、当該物品の品名、数量、価格及び税額に付き所轄税務署の承認を受けたときは、戻入した月分以降の税額からその物品に課せられた物品税に相当する金額を控除される(法第九条第一項後段、規則第十七条)。

四  未納税移出の特別措置として、他の製造場又は蔵置場に移入する目的を以て課税物品を製造場から移出しようとする製造者が、その旨を所轄税務署に申請し承認を受けて移出する当該物品に付ては、法第四条の規定を適用せず、物品税は移出した製造者からは徴収されないが(法第十一条第一項、規則第二十一条)、この場合に於ては、移出先を以て製造場と看做し、移出先の営業者を以て製造者と看做すから(法第十一条第二項)、右の承認を受け製造場から移出した当該物品を移出先である製造場又は蔵置場に移入したときは、移出先の営業者はその旨を所轄税務署に申告しなければならない(規則第二十二条)。

第一点の三に付て。

製造者がその製造に係る課税物品を当該製造に係る製造場から一旦移出した後之を当該製造場に戻入した事実が有り、後日その戻入に付て所轄税務署の規則に基づく承認が有つても、その承認前既に納期が到来して既遂と成つている物品税逋脱罪に対しては、何等影響を及ぼすものではないことは、所論が引用する最高裁判所判例(昭和三十年十一月一日第三小法廷決定、最刑集九巻一二号二三五三頁以下)が夙に判示するところであつて、法第九条第一項後段、規則第十七条が斯る戻入物品に付て、戻入した月分以降の税額からその戻入物品に課せられた物品税に相当する金額を控除するに当り、単に客観的な戻入の事実に依つて当然に控除の効力が生ずるものとなさず、規則第十七条に依る所轄税務署の承認手続を前提要件と為し、その承認を受けたときは、承認後に納付されるべき戻入月分以降の税額から控除が行われるに過ぎないものとし、従つて、承認前既に納期が到来し、一定税額を納付すべきであつたという事実に付遡つて何等かの変更の効果を生ずる訳のものでないことは、斯様に控除の条件を画一化しないで、戻入の事実を一々その時期、品名、数量価格及び税額等に付その都度確認することが徴税技術上煩瑣に堪えず且事実上不可能事に属するからであることに鑑みると、右の判示は洵に相当として当裁判所も之に賛同せざるを得ず、該判例を変更すべき理由は毛頭も存しない。

然りとすれば、原判決が、被告会社に於て同判決の別紙一覧表記載の通り昭和二十三年七月以降同年十一迄及び昭和二十四年一月以降同年十二月迄の間、前後十七回に亘り、原判示玉川工場から移出した旨認定した、その製造に係る紙の中に、所論の如く、右玉川工場から一旦移出した後同工場に返品、即ち戻入したものが包含されているとしても、記録及び当審に於ける事実取調の結果に依れば、右戻入物品に付て、被告会社は、本件発覚の前後を通じ法第九条第一項後段、規則第十七条に依る所轄税務署の承認を受けていないことが認められるから、戻入の時期、品名、数量、価格及び税額等の如何に拘らず、斯る戻入物品に対する物品税相当額を控除しないで物品税逋脱額を認定した原判決に所論の瑕疵は存しない。

尤も、記録及び当審に於ける事実取調の結果に依れば、被告会社が本件に付て昭和二十五年三月以降、当時国税庁調査査察部査察課事務官大堀徳雄の査察を受ける段階に成つてから、被告会社の税務担当者清水謙三等に於て、右大堀事務官に対し、昭和二十三年五月二十一日以降昭和二十四年十二月三十一日迄の原判示玉川工場に対する返品明細表を提出して同事務官の検印を受けた事実が認められるが、右は事件発覚後のことに属し且大堀事務官が同表の記載事項を見た印として自己の認印を押捺したという丈のものであつて、法第九条第一項後段、規則第十七条に依る所轄税務署の承認が与えられたことには該当しないから、同表提出前既に納期が到来し納付すべきであつた本件物品税逋脱税額に付遡つて何等変更の効果を生ずるものではない。

第一点の四に付て。

法第九条第一項後段、規則第十七条にいう「戻入」とは、製造者がその製造に係る課税物品を当該製造に係る製造場から一旦移出した後之を当該製造場に再搬入する行為を汎称し、単に返品の為め再搬入する場合に限らず、所論の如く巻換と称し、紙の製造者がその製造に係る紙を当該製造に係る製造場から販売先又は消費先に出荷し或は自己の蔵置場に保管の為め移入する等して一旦移出した後、巻方が悪い不良品として返送されたものを巻き換えたうえ再移出すべく、一先ず之を当該製造場に再搬入する場合をも含むものと解するのが相当であるから、所論は既にその前提に於て失当たるを免れない。

而して、記録及び当審に於ける事実取調の結果に依れば、所論巻換の為めの再搬入物品に付て、被告会社は、本件発覚の前後を通じ法第九条第一項後段、規則十七条に依る所轄税務署の承認を受けていないことが認められるから、巻換の為めの再搬入の時期、品名、数量、価格及び税額等の如何に拘らず、断る再搬入物品に対する物品税相当額を控除しないで物品税逋脱額を認定した原判決に所論の瑕疵は存しない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 栗田正 判事 沼尻芳孝 判事 中村憲一郎)

弁護人青柳洋外一名の控訴趣意

第一点

四 捲換え分について

移出或いは返品について、原判決に事実誤認のあることを前来、記述してきたのであるが、移出とも返品とも異る特異な事実として、本件で是非とも考慮されなければならないものとして「捲換え」を拳示しなければならない。それは、日報の記載の中に明かに「捲換分」と記載されているものがあることである。捲換えとは、文字通り、玉川工場で製造した仙貨紙丸巻き製品などの中、捲き方が悪いために不良品として工場に返送されたものを、捲き換えを行つた上で、再出荷するものである。このような捲換えは、

(1)  玉川工場から販売先へ送荷したものの中、販売先から直接玉川工場へ返送されてくるもの。

(2)  玉川工場から三田倉庫へ保管のために一時移されたものの中、三田倉庫から返送されてくるもの。

(3)  三田倉庫から販売先へ送られた后、販売先から三田倉庫へ。更に三田倉庫から玉川工場へ返送されてくるもの。

等々があるわけである。そして、玉川工場では、単に捲換えただけで再出荷したり、一部は不良品として廃棄した上、使用可能の部分だけを捲換えて再出荷したり、或いは全部が捲換不能のため不良品として原材料に組入れて了う等の措置を講じているのである。

随つて、日報の記載でも「捲換え」として、出庫欄に記載されているものもあるし、又入庫欄に記載されているものもある。その集計は別紙第四の通りである。この中、出庫欄に捲換分と明記されているものを通常の移出として計算することが誤りであることは、多くの説明を要しないであろう。又、入庫欄に「捲換分」と記載されているものは、(1) それがそのまま捲換えの上、製品として再出庫されても、(2) 又、一部が材料に還元されて再製造にまわされ、一部が捲換の上、製品として再出庫されても、(3) 或いは全部が既に不良のため捲換えが出来ず、原材料として再製造に充てられても、その何れの場合であつても、入庫欄に捲換分と記載されたものが捨て去られて了はない限りそれに相当する製品が、出庫欄に二重に記載されていることとなるのであつて、返品の場合と同様にその額は控除されなければならないものである。

而して、この捲換は、特殊な事例であるから、もとより税務署の承認手続など予想されていないものであり、しかも日報自体から明白に看取できることなのであるから、日報から移出額を算定集計するに当つて、当然これを控除すべきであるのに、これを行はなかつたもので、ここにも事実誤認の存することが明かである。

(その余の控訴趣意は省略する。)

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